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大阪地方裁判所 平成元年(ワ)7363号 判決 1990年7月31日

原告

及川正

ほか八名

被告

樫村祐司

主文

一  被告は、原告及川正に対し、金八〇万六〇二九円、同及川敬、同及川千恵子及び同村上宏子に対しそれぞれ金五一万〇八二四円、同及川金十郎、同引地美代子、同菊地アヤ子及び同及川豊に対しそれぞれ金一一万二四〇五円、同菊地陽一に対し金五万六二〇二円並びに右各金員に対する昭和六三年一二月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを四分し、その三を原告らの負担とし、その余を被告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告及川正に対し金二五六万七五五六円、同及川敬、同及川千恵子及び同村上宏子に対し各金二二四万三七八五円、同及川金十郎、同引地美代子、同菊地アヤ子及び同及川豊に対し各金四九万八六一八円、同菊地陽一に対し金二四万九三〇九円並びに右各金員に対する昭和六三年一二月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  事故の発生

昭和六一年八月一一日午後六時五分ころ、被告が、原動機付自転車(大阪旭う三六九三。以下「被告車」という。)を運転して、大阪市都島区御幸町二丁目八番二号先道路(以下「本件道路」という。)を北から南に向かつて進行中、折から東から西へ向かつて徒歩で横断中の訴外及川ハツノ(以下「ハツノ」という。)に被告車を衝突させ、路上に転倒させた。

2  責任原因

被告は、本件事故当時、被告車を保有し、これを自己のために運行の用に供していたものであるから、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条に基づき、本件事故によりハツノ及び原告らに生じた損害を賠償する責任がある。

3  損害

(一) ハツノの受傷内容、後遺障害等

(1) ハツノは、本件事故により、顔面打撲挫傷、右鎖骨骨折、右膝蓋骨骨折、脳震盪症等の傷害を負い、次のとおり治療を受けた。

ア ツヂ病院

昭和六一年八月一一日から同年一一月一九日まで入院(一〇一日間)

イ 阪和泉北病院

昭和六一年一一月一九日から昭和六二年九月二四日まで入院(三一〇日間)

(2) ハツノは、昭和六二年九月二四日、老人性痴呆症の後遺障害を残して症状が固定したと診断され、右後遺障害は、自動車保険料率算定会調査事務所により、自賠法施行令二条別表後遺障害別等級表(以下「後遺障害別等級表」という。)一級三号に該当すると認定された。

そして、ハツノは、右後遺障害により正常な生活を営むことが全く不可能となつたことから、昭和六二年九月二四日以降、特別養護老人ホームの愛港園に入所せざるを得ず、昭和六三年六月九日まで入所していた。

(二) ハツノの損害

(1) 入院雑費 五三万三〇〇〇円

ハツノの前記(一)(1)の入院期間(合計四一〇日間)中、一日あたり一三〇〇円、合計五三万三〇〇〇円の入院雑費を要した。

(2) 愛港園における費用の一部負担一七万六三二九円

ハツノは、前記愛港園入所費用の一部一七万六三二九円を負担した。

(3) 入院慰藉料 三〇〇万円

ハツノが、前記入院治療中に被つた精神的苦痛に対する慰藉料は、三〇〇万円が相当である。

(4) 後遺障害慰藉料 二〇〇〇万円

ハツノの被つた後遺障害の慰藉料は、二〇〇〇万円が相当である。

(以上合計 二三七〇万九三二九円)

(5) 損害の填補

ハツノは、損害の填補として、自動車損害賠償責任保険(以下「自賠責保険」という。)から一二九七万円、被告から入院雑費等として五二万〇四〇〇円の支払いを受けた。

(三) 相続による損害賠償請求権の承継

ハツノは、昭和六三年一二月一四日に死亡し、原告らは、相続により、ハツノの前記損害賠償請求権(損害填補後の残額一〇二一万八九二九円)を、法定相続分の割合(原告及川正、同及川敬、同及川千恵子及び同村上宏子が各四五分の九、同及川金十郎、同引地美代子、同菊地アヤ子及び同及川豊が各四五分の二、同菊地陽一が四五分の一)で承継取得した。

(四) 原告らの固有の損害

(1) 愛港園における費用の一部負担三二万三七七一円

原告及川正は、ハツノの前記愛港園の入所費用の一部三二万三七七一円を負担した。

(2) 弁護士費用 一〇〇万円

原告らは、本訴の提起、追行を原告ら訴訟代理人に委任し、その報酬として一〇〇万円を前記相続分の割合により負担し、支払うことを約した。

4  結論

よつて、被告に対し、損害賠償として、

(一) 原告及川正は二五六万七五五六円、

(二) 原告及川敬、同及川千恵子及び同村上宏子は各二二四万三七八五円、

(三) 原告及川金十郎、同引地美代子、同菊地アヤ子及び同菊地豊は各四九万八六一八円、

(四) 原告菊地陽一は二四万九三〇九円

並びにこれらに対するハツノが死亡した日の翌日である昭和六三年一二月一五日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  請求原因2のうち、被告が、本件事故当時、被告車を保有し、これを自己の運行の用に供していた事実は認める。

3(一)  請求原因3(一)のうち、(1)の事実は知らない。(2)のうち、ハツノの痴呆症状が後遺障害別等級表一級三号に該当すると認定されたことは認めるが、その余の事実は知らない。

(二)  同3(二)(1)ないし(4)の事実は否認する。ハツノの後遺障害慰藉料については、同女が高齢てあり、症状固定とされた昭和六二年九月二四日からわずか一年余りで本件事故と関係のない原因で死亡している点を考慮し、相当程度の減額がなされるべきである。

同3(二)(5)の事実は認める。

(三)  同3(三)のうち、ハツノが死亡したことは認めるが、その余の事実は知らない。

(四)  同3(四)の事実は否認する。

三  被告の主張

1  素因による寄与度減額

ハツノは、病院に救急車で運ばれ診察を受けた時点では意識が明瞭であり、線状骨折以外頭部に特段大きな傷害はなかつた。ところが、事故後わずか五日程度という短時間で痴呆症状を呈している。従つて、本件事故後のハツノの痴呆症状は、全て本件事故の傷害に起因するものではない。ハツノは本件事故当時七八歳という高齢であり、すでに何らかの老人性痴呆症の素地があり、事故による外傷がそれを一気に発現させたものである。ハツノの老人性痴呆症には、同人の年齢的な問題による寄与もあつたのであり、それに応じて損害額が減額されるべきである。

2  過失相殺

被告は、幅員七メートルの一方通行の本件道路を進行中、本件事故現場の手前約一五メートル付近で本件道路東側路肩付近によるハツノを発見したが、同女が被告の方を見たことから、被告が先行しうると考えそのまま進行したところ、被告車が本件事故現場の手前六メートル余りまで接近した時点で、ハツノが急に進路前方を横断し始めたものである。被告は、直ちに急制動の措置をとつたが、避けきれずハツノに衝突したものであり、仮に、被告車が制限速度以下で走行していたとしても、ハツノを避けられなかつた可能性がある。

なお、本件事故現場には横断歩道が設置されていなかつた。

右のとおり、本件事故の発生については、ハツノにも重大な過失があつたものであり、後記3の付添費及び文書料合計七二万二七二五円をハツノの総損害額に含めたうえ、ハツノ及び原告らの損害について相当な過失相殺がなされるべきである。

3  損害の填補

被告は、ハツノに対し、損害の填補として、請求原因3(二)(5)記載の既払金の他に、次のとおり合計七二万二七二五円を支払つた。

(一) 付添費(家政婦代) 七一万〇二二五円

(二) 文書料 一万二五〇〇円

四  被告の主張に対する原告らの認否及び反論

1  被告の主張1の事実のうち、ハツノが本件事故当時満七八歳であつたことは認めるが、その余の事実は否認する。

2  同2の事実のうち、本件道路の幅員が七メートルであつたこと及び本件事故現場付近には横断歩道が設置されていなかつたことは認め、その余の事実は否認する。

本件道路は、幅員七メートルの比較的狭い道路である上、本件事故当時、その左右に自動車が多数かつ連続的に駐車されており、特にハツノが横断しようとしていた道路交差点付近は、通常は横断歩行者が頻繁に通行する場所であつた。しかも、被告は、ハツノを道路脇に発見した段階で同女が老人であることを確認していたものであるから、被告は、本件事故現場を通過するにあたつて、ハツノの動静を終始注視した上、徐行の状態で進行すべきであつたところ、被告は、前記道路を法定制限速度時速三〇キロメートルを超過する時速三五キロメートルの速度で進行し、ハツノを発見するも、同女が道路を横断しないものと軽信し、同女を発見してから衝突するまでも終始一貫、制限速度超過の前記速度で漫然進行したものである。

従つて、本件事故は、被告の一方的かつ初歩的ないし基本的な過失に基づくものであり、ハツノに落ち度はないというべきである。

3  同3の事実のうち、被告が、ハツノに対し、付添費等として合計七二万二七二五円を支払つたことは認める。

第三証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  事故の発生及び被告の責任

請求原因1の事実及び同2のうち、本件事故当時、被告が被告車を保有し、これを自己の運行の用に供していた事実は当事者間に争いがない。

右事実によれば、被告は、自賠法三条に基づき、ハツノ及び原告らに生じた損害を賠償すべき責任がある。

二  ハツノの受傷内容、症状の経過及び後遺障害

1  ハツノの受傷内容及び症状の経過

ハツノが本件事故当時満七八歳であつたことは当事者間に争いがなく、原本の存在及び成立に争いのない甲第二号証の三ないし五、第三号証の一、二、成立に争いのない乙第四号証の一、二、第五号証、原告及川正本人尋問の結果を総合すれば、以下の事実が認められる。

(一)  ハツノは、明治四〇年一一月四日生まれ(本件事故当時満七八歳)の女性で、本件事故当時、次男である原告及川正方に同居していた。同女は、心臓に疾患があつて昭和六一年六月以降ペースメーカーを入れており、また、耳が遠くて補聴器をつけ、さらに両眼白内障で眼科に通院中であつたが、そのほかに特に悪いところはなく、介助なしに日常生活を送つていたばかりか、本件事故の約一か月前には尾道市内に住む原告村上宏子宅に遊びにいくほど元気であつた。

(二)  ハツノは、一人で銭湯に行く途中で本件事故にあい、直ちにツヂ病院に搬送され、顔面打撲挫傷、右鎖骨骨折、右膝蓋骨骨折、脳震盪症等と診断されて同病院に入院した(翌日の昭和六一年八月一二日、左前頭骨に線状骨折があることが発見された。)。

なお、同女は、本件事故後ツヂ病院に搬送されるまでの間、一時的に意識を喪失したが、右受診時には意識障害は回復していた(ただ、同女は、銭湯に行こうとしていたことまでは覚えているが、それ以降病院に搬入されるまでの間の記憶を喪失していた。)。

(三)  ツヂ病院入院中、ハツノは下腿部をシーネ固定され、安静治療を受けていたが、各骨折部の癒合は順調に進み、また、疼痛も次第に消失して、同年九月初め頃からは歩行訓練も開始され(同月二日シーネ除去)、同月中旬頃には介助なしに歩行できるようになつた。

しかしながら、同女は、入院直後から夜間に動き回つたり、同年八月一六日からときどき意味不明のことを話すようになり、同日の回診で「ボケ(痴呆)あり」と診断された。その後、同女は、一時的に回復して意識もはつきりしているときもあるが、夜間に動き回つたり、洗面所を便所と間違えたりといつたことが続き、次第に、人形を抱いて放さず、人形に食べ物を与えようとしたり、家人が判らない、病院にいることも判らないといつた状態となり、痴呆により一人での行動は無理である(付添いが必要)と診断されるに至つた。

なお、同病院の長谷川医師は、同女の痴呆状態についての被告訴訟代理人からの照会に対し、年齢的、心因的要素も否定できないが、本件事故による頭部外傷に起因する部分が大であると回答している。

(四)  ハツノは、昭和六一年一一月一九日、阪和泉北病院に転院し(ツヂ病院での入院一〇一日)、そこで頭部外傷後遺症、左前頭慢性硬膜下水腫と診断されて治療を受けたが、昭和六二年九月二四日、高度の痴呆を示し(鈴木ビネー式知能指数三八等)、徘徊、不穏等の症状を残して症状が固定し(なお、頭部CT検査では、左前頭部に軽度の硬膜下水腫及び側脳室の軽度拡大が認められた。)、右痴呆は改善の可能性はなく、常に日常生活の介助を要する状態にあると診断された。

(五)  ハツノは、昭和六二年九月二四日、前記阪和泉北病院を退院し(同病院における入院三一〇日)、同日から昭和六三年七月一八日まで特別養護老人ホームの愛港園に入所した。

なお、ハツノは、昭和六三年一二月一四日、死亡した。

2  後遺障害の程度

ハツノの後遺障害が、自動車保険料率算定会調査事務所によつて後遺障害別等級表一級三号に該当すると認められたことは当事者間に争いがなく、右事実に前記1で認定した事実を総合すれば、右後遺障害は、後遺障害別等級表一級三号「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し常に介護を要するもの」に該当すると認めることができる。

三  損害

1  ハツノの損害

(一)  入院雑費 五三万三〇〇〇円

前記認定事実によれば、ハツノは、本件事故により合計四一〇日間の入院を余儀無くされ、その間、一日当たり一三〇〇円、合計五三万三〇〇〇円の雑費を要したものと推認することができる。

(二)  愛港園入所費用 一七万六三二九円

前記認定のとおり、ハツノは、本件事故に起因する痴呆症状のため、特別養護老人ホームである愛港園に入所したものであるところ、前掲甲第三号証の一、二によれば、その費用の一部一七万六三二九円を同女が負担したことを認めることができる。

(三)  慰藉料 一八〇〇万円

前記認定のハツノの傷害の部位、程度、入通院期間、症状の経過、後遺障害の程度に、同女の年齢及び同女が症状固定後約一年三か月後に死亡したこと、その他諸般の事情を考慮すると、本件事故によつてハツノが受けた肉体的、精神的苦痛に対する慰藉料としては、入通院分、後遺障害分を合わせて一八〇〇万円が相当である。

(以上合計 一八七〇万九三二九円)

2  原告及川正固有の損害 三二万三七七一円

前掲甲第三号証の一、二によれば、ハツノの愛港園入所費用のうち、原告及川正が三二万三七七一円を負担したことが認められる。

四  素因による寄与度減額

前記のとおり、ハツノは、本件事故当時、満七八歳という高齢であつたこと。本件事故後間もないうちから痴呆症状が現れていること、ツヂ病院の担当医師が同女の発症について年齢的、心因的要素も否定できないとしていることが認められる。

しかしながら、前記認定のとおり、同女は、心臓疾患、難聴、白内障といつた疾病を有していたものの、そのほかに健康上の支障はなく、他人の介助なしに日常の生活を送り、また旅行にも出かけていたこと、本件事故により、ハツノは頭部に頭蓋骨骨折が生ずるほどの衝撃を受け、その後のCT検査で、左前頭部に軽度の硬膜下水腫及び側脳室軽度拡大が認められており、前記医師も、同女の痴呆状態について、本件事故による頭部外傷に起因する部分が大であると判断していることに、前記の症状の経過、とくに、同女は、右膝蓋骨骨折等により、事故直後から他人の介護を要する入院生活を強いられたことなどを併せ考えると、本件において、ハツノの発症について年齢的素因その他の素因があつたとしても、損害の公平な分担という観点から損害賠償額を減額すべき事情があると認めることはできないというべきである。従つて、この点に関する被告の主張は採用しない。

五  過失相殺

1  前記一の争いのない事実(本件事故の発生)に、原本の存在及び成立に争いのない乙第一ないし第三号証によれば、以下の事実を認めることができる。

(一)  本件事故現場の状況は、別紙図面記載のとおりである。

本件道路は、歩車道の区別のある南行一方通行路であり、最高速度は時速三〇キロメートルに制限されていた。また、同図面記載のとおり、本件事故現場付近の本件道路は、ほぼ直線となつており、被告からの前方、左右の見通しは良好であつた。

なお、本件事故現場付近には、横断歩道は設置されていなかつた(この点は当事者間に争いがない。)。

また、本件事故当時の天候は晴れで、周囲はまだ明るかつた。

(二)  被告は、被告車を運転して、本件道路を時速約三五キロメートルの速度で走行中、別紙図面<1>付近で、約一五メートル前方の<ア>地点に道路を渡りかけ立ち止まつたハツノを認めたが、同女が自分の方を見たことから、被告車が通り過ぎるまで同女が横断しないものと考え、進路を少し中央寄りに変えながらそのままの速度で進行したところ、<2>付近において、ハツノが約六・七メートル前方のところを<ア>から<イ>のように横断を始めたことを認め、直ちに急ブレーキをかけたが及ばず、<×>地点において、被告車(<3>)前輪部分をハツノに衝突させ、ハツノは<エ>地点に、被告車は<4>地点に倒れた。

2  右認定事実によれば、被告は、ハツノの姿を認めながら、同女が横断しないものと軽信して、その動静を十分に注意することなく、減速徐行をしないまま漫然と進行した過失により本件事故を発生させたもので、その落度は大きいというべきである。

他方、ハツノとしても、道路を横断するに当たつては、左右の安全を確認して横断を開始すべき注意義務があつたところ、右方から進行してくる車両の動静を十分確認することなく、その直前を横断しようとしたため、本件事故に至つたのであるから、ハツノにも過失があるといわなければならない。

右の点に、ハツノの年齢その他前記認定の事情を総合考慮すると、ハツノと被告の過失割合は、ハツノ一五パーセント、被告八五パーセントとするのが相当である。

3  そこで、ハツノの前記損害額合計一八七〇万九三二九円に後記付添費及び文書料として要した七二万二七二五円(弁論の全趣旨によれば、ハツノの付添費等として右全額を要したことが認められ、損害の公平な分担という観点から、これをハツノの総損害に含めた上、過失相殺するのを相当と認める。)を合計した一九四三万二〇五四円及び原告及川正の損害額三二万三七七一円からそれぞれ一五パーセントを減ずると、次のとおりとなる(一円未満切捨て。以下、同じ)。

(一)  ハツノの損害額 一六五一万七二四五円

(二)  原告及川正の損害額 二七万五二〇五円

六  損害の填補

1  ハツノが、損害の填補として、自賠責保険から一二九七万円、被告から入院雑費等として五二万〇四〇〇円、付添費及び文書料として七二万二七二五円の支払いを受けたことは当事者間に争いがない。

2  そこで、ハツノの前記損害額から右の金員を控除すると、被告がハツノに対して賠償すべき残損害額は、二三〇万四一二〇円となる。

七  相続による損害賠償請求権の承継及び原告らの各損害額

成立に争いのない甲第一号証の一ないし九によれば、相続により、原告らがハツノの前記損害賠償請求権をその主張の割合に応じて承継したことを認めることができる。

したがつて、原告らが請求しうべき損害額は次のとおりとなる。

1  原告及川正 七三万六〇二九円

2,304,120÷5+275,205=736,029

2  原告及川敬、同及川千恵子及び同村上宏子 各四六万〇八二四円

2,304,120÷5=46,824

3  原告及川金十郎、同引地美代子、同菊地アヤ子及び同及川豊 各一〇万二四〇五円

2,304,120÷5÷9×2=102,405

4  原告菊地陽一 五万一二〇二円

2,304,120÷5÷9=51,202

八  弁護士費用

本件事案の内容、審理経過、認容額等に照らすと、本件事故と相当因果関係にある損害として賠償を求め得る弁護士費用の額は、次のとおりと認めるのが相当である。

1  原告及川正 七万円

2  原告及川敬、同及川千恵子及び同村上宏子 各五万円

3  原告及川金十郎、同引地美代子、同菊地アヤ子及び同及川豊 各一万円

4  原告菊地陽一 五〇〇〇円

九  結論

以上のとおりであるから、原告らの本訴請求は、原告及川正については八〇万六〇二九円、同及川敬、同及川千恵子及び同村上宏子についてはそれぞれ五一万〇八二四円、同及川金十郎、同引地美代子、同菊地アヤ子及び同及川豊についてはそれぞれ一一万二四〇五円、原告菊地陽一については五万六二〇二円並びに右各金員に対する不法行為の日の後である昭和六三年一二月一五日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるから、これを認容し、その余の請求はいずれも失当であるから棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行宣言について同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 二本松利忠)

別紙

<省略>

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